[NORA的日常] ひねもす里山
ユギ・ファーマーズ・クラブへ
ゼミの時間を利用して、学生たちとともに田植えをしてきました。場所は、京王堀之内駅から徒歩25分程度で、住所で言うと八王子市堀之内にあります。一部の人にはよく知られている「ユギ・ファーマーズ・クラブ」(正式名称は「由木(ゆぎ)の農業と自然を育てる会」)がお米を作っている田んぼです。6月中に田植えを済ませる予定だったのですが、私たちを受け入れてくださる方との日程調整がうまくいかず、7月にずれ込んでしまいました。
私は、今の大学で職を得てからずっと、ここの田んぼに学生たちを連れて行っています。最近は、体験学習と称して、小学生の頃から田植えと稲刈りを経験することがありますが、私のゼミでも同様のことをしています。日常の水の管理や草取りなどには関わっていません。大学生なのだから、もっと本格的に米づくりかかわるべきだという声が聞こえてきそうですが、そこまでの余力は学生にも私にもありません。また、私がここを学習先に選んでいる理由が、田んぼ作業を体験することよりも、ユギ・ファーマーズ・クラブという市民団体に触れることを重視しているから、ということもあります。
もう15年ほど前になりますが、ユギ・ファーマーズ・クラブの活動は全国的に知られていました。『地域の力―食・農・まちづくり』を書かれた大江正章さん(コモンズ)が学陽書房に在職していた頃に刊行された『「農」はいつでもワンダーランド―都市の素敵な田舎ぐらし』
には、当時の活動の様子が生き生きと書かれています。また、『環境白書』平成8年版にも取り上げられました。かなり長いですが、活動が盛んだった頃のユギ・ファーマーズ・クラブの様子がよくわかるので、以下に引用します。
近年、農村や農業の持つ自然や歴史・文化の豊かさ、循環の仕組みが見直されつつあり、都市住民にとっては自然や地域文化とのふれあいの場所として、今後ますますその価値が高まっていくと考えられる。地域に残された農地や自然とそれに育まれた生活文化を活かしながら、都市住民と地域住民の交流のもとに、地域づくりをしている例が見られる。東京の西に広がる多摩丘陵に、人口30万人を目指す新しい街「多摩ニュータウン」があり、それに隣接した地区の一角に「ユギ・ファーマーズ・クラブ」はある。そこには雑木林や畑地が展開する多摩丘陵の原風景が広がっている。ユギ・ファーマーズ・クラブは多摩ニュータウン近辺の地区で、代々酪農や養蚕を営んでいる農家、生活している住民、周辺の市街地に住む都市住民が交流しながら、多摩丘陵の豊かな自然を活かした暮らしやすいニュータウンづくりを進めるための活動を行っている市民団体である。
多摩ニュータウンに隣接した地区には、開発が進む中で展開された農地の保全運動がきっかけとなって開発区域から除外され酪農が行われている4.4haの区域がある。そして、その区域を拠点として農家を中心に地元住民、ニュータウン住民等様々な人々の参加の下に酪農農業を都市住民に理解、評価してもらうための研究活動が展開され、その活動の中からユギ・ファーマーズ・クラブは発足した。会員数は、現在300人を越えている。活動内容は自由で、自分の生活に無理のない範囲で農作業を楽しむといった形になっている。稲作や野菜栽培、養蚕、炭焼き、ハム・ソーセージ・そば・お茶・ジャム作りなど多彩である。周辺地域からも様々な参加者が集まるようになり、その活動と人々の交流は日常的なものになっている。活動を知って、地元の小学校からは、クラスごとに農業体験を行いに来る。また、障害者の施設の生徒たちも訪れるが、農家から借りた畑で椎茸や野菜、花づくりを生き生きと行っている。
ユギ・ファーマーズ・クラブの人々は、自然や農業と共存する都市づくりは都市の価値を高めこそすれ、損なうことはないと考えている。ニュータウンの中の農地にはゆとりやうるおいがあり、人々にとって、心地よい空間となっているからである。四季折々変化する自然の中で遊び、生き物の大切さを子供達に学ばせたいという願いにこたえてくれるのも残された森や農地なのである。ニュータウンの登場の裏で、昔からの農村共同体に変わり、新しい共同体として登場したのがユギ・ファーマーズ・クラブと言えるだろう。
個性的で豊かな地域づくりを進めるためには、地域に眠る文化や伝統を適切に掘り起こし、新しいものも加えて、今に活かす工夫が求められる。地域の良さは、その地域に住む人ばかりでなく、他から訪れた人によっても発見される場合が多い。ユギ・ファーマーズ・クラブの活動は、都市と農村双方の住民が交流することにより、伝統的な良さに新しい価値観が加えられて、自然と人間、人間と人間が豊かにふれあえる空間を保全しているものである。
現在、ユギ・ファーマーズ・クラブのフィールドを訪ねてみると、かつての賑わいは感じられません。一定の活動成果を収めた今は、残された里山を維持するために数人のメンバーが田畑を耕作しています。活動が盛り上がっていたときには、多くの研究者がやって来て、優良事例だともてはやしていました。しかし、今のような定常状態になると、あまり見向きもされなくなってしまいます。
私は、活動が盛り上がりに自分を重ね合わせて高揚感に陶酔するのではなく、たんたんと活動を継続させている1人ひとりの力と出会い、自らを見つめ直せるような人になりたいと考えています。だから、ユギ・ファーマーズ・クラブのフィールドへと、毎年足を運んでいるのだと思います。
(M_M)
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